どうも。
何名かのお客様から昔みたいに記事を書いていた頃みたいに解説書いてよ、とのご要望を受けましたのでコロナ期間中で時間もあることですし、
GenTleらしいマニアックな時計の解説をしていこうと思います。
初回のご紹介はパネライ ルミノールレフトハンド44 PAM00115でございます。
個人的にルミノールレフトハンドはPAM00022、PAM00115、PAM00557と3本ほど所有していた経歴も有り物凄く思い入れのあるモデルとなります。
2000年代初頭のパネライブームは本当に凄まじく、ロレックスの様にプレ値になっているパネライがいくつもありました。
デカ厚という文化がまだ浸透していなかった時代に突如44mmのドデカい時計が現れてそれも、日本と親和性の高いイタリアのデザインものでしたから。
時代の風雲児達がこぞってパネライを着けていたのを思い出します。
何せパネライのステンレスモデルがどこも売り切れでブティックで定価で買えない時代さえありました。驚きますよね。
その中でも元祖レアパネライといえば私的にはこの「ルミノールレフトハンド」なのです。
はじめにパネライのモデルに対して「レア」という言葉を私が使う際の感覚のご説明です。
まず「レア」という定義ですが、パネライに関しては個人的に「総生産本数」が1000本以下が最低限の定義だと思っております。
かつてはフランスのパネライファンサイト(7年前くらいに閉鎖してしまった)でみんながデータを持ち寄りパネライの年間生産本数と総生産本数をデータ化したサイトがありました。
多分このサイトを聞いてピンと来た方は相当なパネライ好きです。店主と1時間ぐらい話せるタイプの人だと思います。
本当のパネライ馬鹿(褒め言葉)達は夜な夜なこのサイトを見ながら、各モデルの世界での流通数をカウントして客観的に珍しいパネライのモデルを把握していた様に思います。
ルミノールレフトハンド PAM00115 で言えば 200本、300本、300本の3年間合計800本生産だったと思います。
ソースはそのフランスのサイトと私自身がかつて書いていた時計のブログですね。後は買い取った際にいつもチェックしているので(笑)
よくパネライの販売サイトに年生産○○本などと書いてありますが、それだけでは不十分です。
というのもパネライの中では10年以上継続して生産するモデルもあり、年生産が3000本でも10年以上生産して結果的に3万本以上個体が存在しているものも数多くあります。
まずパネライのレア度とは明確に限定本数が記述されているもの以外は「年生産×生産継続年数」によって決まります。
私個人で言えばその総数が1000本以下でレア、生産が少ないといえるのは生産総数がせいぜい2000~3000本まででしょう。
それ以上の本数が生産しているのに「レアもの」なんて説明に書かれていると一体どのあたりがレアものなのだろう?レアものという言葉の安売りだな、と思っております。
今現在のパネライの1年の生産能力が75000本ほどですから今現在にあてはめても作られる時計の1パーセントにも満たない製造数です。
したがって私が言っているレアとはPAM00115が通常のパネライのモデルの1/5~1/10ほどの総数しか無いという客観的な点からです。
続いて中身のムーブメントについてですね。このあたりは私は接客ではあまり話さないところですね。
こういう機械好きの話ってすごく楽しいか、興味が無い人によってはただの苦痛でしかありません。
ですので私はあくまでも聞かれたら答えるというスタンスです。
PAM00115はOP XIと呼ばれるスウォッチグループETAのETA6497-2というムーブメントを徹底的にカスタム搭載しております。
今でこそ自社ムーブメントの割合が多いパネライですがリシュモングループ加入後の2000年からのムーブメントをほとんど他社から購入している2006年頃までは今では考えられないくらい色々なメーカーの機械が入っております。
2006年以前のパネライはロレックス、ジラールペルゴ、ゼニス、ブレゲ、などなど名だたるメーカーの機械が入ったモデルもありまして実は自社ムーブメント製造が始まる前のパネライの中身はかなり面白いことになってます。
メーカーが公式にロレックスの機械を使っているとして製品を販売したのもパネライぐらいでしょうか。
そのぐらい2006年までのパネライの機械はコラボ祭りとなっております。
さて話を戻しまして、ETA6497-2という機械を搭載しているPAM00115 OP.XIですが、特にこちらの場合ベースのムーブメントもいわゆる汎用ムーブメントと呼ばれる普及品ですので珍しいものではありませんが、とにかくパネライが原型が無いほどカスタムしております。
左側が完成品、右側がカスタム前ですね。そもそも形が変わってるし、テンプの調速機構も追加されてます。
一概にETA社の機械を使っているからといって一括りに評価するのは早計です。
地板や見える部分も全て装飾を施しておりまして裏スケルトンとしても元のムーブメントよりも遥かに美しい美観になっております。
それに元の6497-2のパーツ数が70個以下だったと記憶しているのですが、とにかく単純構造である為、ノーメンテナンスの20年前のルミノールマリーナが平然と精度が出て普通に動いてたりします。このあたりはロレックスに通ずる所がありますね。
ロレックスのデイトジャストが総数120パーツほど、オーデマピゲなんかはどの時計も総数200パーツ超えですのでいかに単純な構造なのかがわかります。ただし長期に使用する場合単純構造というのは修理のしやすさ、故障発生個所の少なさに直結致しますのでマイナス要素とは限らないのです。
そしてとにかくロレックス、オメガ、パネライあたりの3針時計はとにかく頑丈です。
実際に時計販売を長年行っておりますと本当に予想外の部分が壊れたりします。B社なんかはブレスレットがリコールものの作り(接着剤で付けただけ)みたいな時計もありますし、F社なんかはローターがすっぽ抜けて内部でネジが散乱したり、時計の寿命自体を脅かす致命的な故障が発生します。
パネライはそれが少ない。
パネライの修理で実は多いのがリューズ周りの小さなトラブルです。
竜頭とつながっているオシドリという部分のネジが緩みやすいという点があるのですが、それはオーナーが竜頭操作を優しく行うというところである程度ケア出来る故障になりますから使い方を気を付けて頂ければとにかく長く使える機械なのです。
そしてベースのETA6497-2は世界中の時計修理業者が必ず1度は触った事がある、時計修理学校でもすぐに触るような機械ですからどこでも修理できるのもこの機械の強みでもあると思います。店主の私も組み上げを行ったこともあります。
PAM00115はレアなモデルでありながら少数パーツによって構成されている頑強なムーブメントを持ち、なおかつメンテナンスも今後もあらゆる場所で出来るであろう長きに渡る相棒としてはこの上ない1本なのであります。
最後に文字盤についてです。
パネライの時計の接客でよく聞かれるのが「同じように見えるのになぜ値段が違うの?」という事です。
簡単に答えると「同じように見えるのに作り方とコストが全然違うから」です。
分かりにくいとは思いますがパネライには6の数字が繋がっているモデルとそうでないものがあります。
一概に全部とは言えないのですが左はPAM00115の文字盤、右側が自動巻き仕様、定価安めのパネライの文字盤です。
注目して欲しいのは6の数字の繋がりだけでは無く、左は数字の部分の高さが低い事、右は数字の部分がもっこりと盛り上がっているところです。
左の画像は通称流し込み文字盤と呼ばれておりまして、右側は盛り夜光文字盤となっております。
パネライはどれも文字盤のデザインは同じようなモノですが製造方法が異なります。
大まかに「流し込み文字盤」「サンドイッチ文字盤」「盛り夜光文字盤」に分かれております。
当然文字盤の製造方法の違いからコストの差が生まれます。
盛り夜光文字盤は平面の板に数字の形に夜光塗料を乗せるから最も大量生産に適しておりますし、コストが安めなのだと思います。
流し込み文字盤は一度数字の形に金属を彫り込みますし、サンドイッチダイアルは名前の通り2枚の文字盤を用意して夜光塗料を挟み込む様な形で文字盤を成型しておりますので当然ながらコストは高くなります。
定価の安いモデル特に定価アンダー60万円モデルには「盛り夜光文字盤」されることが多いと思います。
個人的には流し込み文字盤とサンドイッチ文字盤の評価がパネライファンからは高いような気がしてます。
サンドイッチ文字盤じゃないと絶対イヤ、という方もちらほらいらっしゃいます。
今後パネライを買う際は数字の6の繋がりや文字盤の作りなどにも注目してみてくださいね。
ちなみにパネライのレフトハンドモデルは竜頭が逆側にあるので左手に着けると手の甲に当たらないという超実用モデルでございます。個人的にはこの理由がこのパネライを選び続けてきた理由です。
今回のまとめ
①PAM00115は生産本数1000本以下の少数生産
②PAM00115のOP.XIムーブメントは頑丈、ETA輸入品をめちゃくちゃカスタムしてる。メンテンスもイージー。
③流し込み文字盤というコスト高な文字盤を採用
という3点推しとなっておりますので、パネライ選びが気になる方はいつでも相談してください。
ではまた。
GenTle店主